『500万円以上の工事を受けたいが、個人のまま許可を取るべきか、先に法人化すべきか』。一人親方の方からこのご相談を受けない月はありません。
結論から言えば、一人親方のままでも建設業許可は取得できます。ただし、許可を取るタイミングと法人化のタイミングを間違えると、手続きが二度手間になったり、余計な費用がかかったりすることがあります。
この記事では、一人親方が建設業許可を取得する際の要件と、法人化を含めた最適なタイミングの判断基準を、行政書士の実務経験をもとに解説します。
この記事で分かること
- 一人親方(個人事業主)が建設業許可を取得するための5つの要件
- 個人のまま許可を取る場合と、法人化してから取る場合の違い
- 令和2年改正で可能になった『事業承継認可制度』の活用法
- 法人化のタイミングを判断するための3つの基準
- 許可取得後に法人化する場合の注意点
一人親方でも建設業許可は取得できる|5つの要件を確認
建設業許可の要件は個人でも法人でも基本的に同じです(建設業法第7条、第8条)。一人親方の場合、以下の5つの要件を満たす必要があります。
要件1:経営業務の管理責任者がいること
建設業に関して5年以上の経営経験が必要です。一人親方として5年以上事業を営んでいれば、この要件を満たします。
証明方法は、5年分の確定申告書の控え(税務署の受付印またはe-Tax受信通知付き)と、同期間の工事請負契約書・注文書・請求書等です。
要件2:専任技術者がいること
取得したい業種に対応する国家資格を持っているか、その業種で10年以上の実務経験があることが必要です(建設業法第7条第2号)。指定学科卒業の場合は、高卒で5年、大卒で3年に短縮されます。
一人親方の場合、経営業務の管理責任者と専任技術者を同一人物が兼任できます。ただし、専任技術者は主たる営業所に常勤していることが原則のため、現場との兼務には制限があります。
要件3:財産的基礎があること
一般建設業許可の場合、自己資本が500万円以上あるか、500万円以上の資金調達能力があることが必要です。個人事業主の場合、自己資本は『期首資本金+事業主借+事業主利益-事業主貸+利益留保性の引当金・準備金』で計算されます。
自己資本で500万円を証明できない場合は、金融機関が発行する残高証明書で資金調達能力を証明します。この残高証明書は、申請日の直前1か月以内に発行されたものが必要です。
実務ではこういう相談が多い
『通帳のコピーではだめですか』というご質問をよくいただきますが、通帳のコピーは認められません。必ず金融機関の窓口で残高証明書を取得してください。また、複数の口座の合算で500万円を超える場合は、同一日付の残高証明書を複数取得する必要があります。申請直前に一時的に500万円を用意する『見せ金』は、発覚した場合に許可取消しのリスクがありますので、絶対に避けてください。
要件4:欠格要件に該当しないこと
破産者で復権を得ない者や、禁錮以上の刑に処せられその刑の執行が終わってから5年を経過しない者などに該当しないことが必要です(建設業法第8条)。
要件5:社会保険に適切に加入していること
令和2年10月の改正により、適切な社会保険への加入が許可要件に追加されました。一人親方で従業員がいない場合は、国民健康保険と国民年金に加入していれば要件を満たします。
個人で許可を取るか、法人化してから取るか|比較表で整理
建設業許可を検討する一人親方にとって最大の悩みが、『個人のまま取るか、法人にしてから取るか』という選択です。以下の比較表で違いを整理します。
- 項目 | 個人で許可取得 | 法人化してから許可取得
- 許可申請手数料(知事・新規) | 9万円 | 9万円(同額)
- 法人設立費用 | 不要 | 約20〜25万円(登録免許税+定款認証等)
- 申請書類の量 | 法人より少ない | 個人より多い(定款・登記事項証明書等)
- 社会保険 | 従業員4人以下なら適用除外 | 強制加入(代表者1人でも加入義務)
- 対外的な信用 | 法人より低い傾向 | 取引先・金融機関からの信用が高い
- 元請からの受注 | 法人限定の元請には発注されない | 取引先の幅が広がる
- 税務上の有利さ | 所得が低いうちは有利 | 所得800万円超で法人税が有利になる傾向
- 許可の承継 | 事業主の死亡で許可が消滅 | 代表者が変わっても許可は存続
- 後から法人化する場合 | 事業承継認可の手続きが必要 | 不要(最初から法人で取得済み)
令和2年改正で変わった|事業承継認可制度を使えば許可番号を引き継げる
令和2年10月1日施行の建設業法改正(建設業法第17条の2)により、個人事業主が法人化する際に、建設業許可を空白期間なく承継できる制度が新設されました。
改正前の問題点
改正前は、個人で建設業許可を持つ一人親方が法人化する場合、個人の許可を廃業し、法人として新規に許可を申請し直す必要がありました。審査期間中(通常1〜2か月)は許可がない状態となり、500万円以上の工事を受注できない空白期間が生じていました。
改正後の事業承継認可制度
改正後は、法人化の前にあらかじめ事業承継の認可を受けることで、個人の許可番号を含む建設業者としての地位をそのまま法人に引き継ぐことができます。これにより、許可の空白期間が生じません。
ただし、事業承継認可の申請は法人化の前に行う必要があり、必要書類も多いため、事前の準備期間が必要です。
実務ではこういう相談が多い
『もう法人の登記を済ませてしまったのですが、許可を引き継げますか』というご相談がありますが、事業承継認可は法人設立の前に申請する必要があります。登記後では認可を受けられず、法人として新規申請をやり直すことになります。法人化を検討されている方は、登記手続きに入る前に行政書士にご相談ください。
法人化のタイミングを決める3つの判断基準
判断基準1:年間の事業所得が800万円を超えているか
個人事業主の所得税は累進課税(最高45%+住民税10%)であるのに対し、法人税の実効税率は約23〜34%です。一般的に、事業所得が800万円を超えるあたりから法人化による節税メリットが出始めます。
ただし、法人化すると社会保険料の事業主負担が発生し、赤字でも法人住民税の均等割(年間約7万円)がかかります。売上が安定していない段階での法人化は、固定費増のリスクがあります。
判断基準2:元請が法人との取引を条件にしているか
建設業界では、元請が下請に対して法人であることを取引条件にしているケースが少なくありません。『許可は持っているが個人事業主だから発注できない』と言われる状況であれば、法人化は売上に直結する投資です。
判断基準3:従業員を雇用する予定があるか
従業員を雇用する場合、法人であれば社会保険(健康保険+厚生年金)に加入でき、採用面で有利になります。また、従業員に専任技術者を担わせることで、事業主自身が現場に出やすくなるというメリットもあります。
実務ではこういう相談が多い
『とりあえず個人で許可を取って、軌道に乗ったら法人化したい』という方は多いです。この進め方自体は合理的ですが、法人化の際に事業承継認可の手続きが必要になることを見落としがちです。『法人化してから考えればいい』ではなく、許可取得の段階で法人化の時期をおおまかに想定しておくことをおすすめします。
まとめ|許可取得と法人化の判断チェックリスト
一人親方が建設業許可を取得すること自体は、要件さえ満たせば個人のままで可能です。問題は『いつ法人化するか』のタイミングです。
以下のチェックリストで、現時点での最適な選択肢を判断してください。
個人のまま許可を取得すべきケース:
- 年間所得が800万円以下で、当面は個人で事業を継続する予定
- 元請からの受注に法人であることの条件がない
- 従業員を雇用する予定がない
- 法人設立費用(約20〜25万円)をかけたくない
法人化してから許可を取得すべきケース:
- 年間所得が800万円を超えており、節税メリットがある
- 元請が法人との取引を条件にしている
- 近い将来(1〜2年以内)に従業員を雇用する予定がある
- 事業の拡大を見据えて対外的な信用を高めたい
すでに個人で許可を持っており、これから法人化するケース:
- 事業承継認可制度の活用を検討する(法人設立の登記前に申請が必要)
- 行政書士に事前相談し、スケジュールを立てる
建設業許可の取得や法人化のタイミングに関するご相談は、行政書士ARISEリーガルオフィスまでお気軽にどうぞ。
