【結論】標準労務費とは、中央建設業審議会が令和7年12月2日に勧告した『労務費に関する基準』が示す、建設工事で通常必要と認められる労務費(技能者の賃金の原資)の相場観のことで、「公共工事設計労務単価×標準的な歩掛かり」を基本に算出します。令和7年(2025年)12月12日に全面施行された改正建設業法では、この基準を著しく下回る見積りや、正当な理由のない原価割れ契約が禁止され、建設業者(下請を含む受注者)は指導・監督処分の対象、著しく低い労務費への変更を求めた注文者は勧告・公表の対象となります。下請業者がやるべき対応は、①見積書に労務費の内訳を明記する、②契約書を取り交わし見積書を10年間保存する、③工期ダンピングに応じない、の3つです。
『うちみたいな小さい会社には関係ないだろう』と思われるかもしれませんが、許可業者であれば元請・下請の規模を問わず、見積りと契約に直接影響します。違反すれば指導・監督処分の対象となり、悪質・反復的な場合は営業停止や許可取消しにつながるリスクもあります。
この記事では、中小建設業者・下請業者の方が『何をすればいいのか』に絞って、改正の要点と具体的な対応策を解説します。
この記事で分かること
- 改正建設業法の3つの柱(標準労務費・著しく低い労務費の禁止・原価割れ契約の禁止)
- 標準労務費とは何か、どう算出されるのか
- 下請業者が今すぐやるべき3つの具体的対応
- 違反した場合の措置(受注者・注文者別)
- 元請から不当な値下げを求められた場合の対処法
標準労務費とは?|改正建設業法の3つの柱
標準労務費とは、『公共工事設計労務単価(円/人日・8時間)×標準的な歩掛かり(人日/単位施工量)』で算出される、施工量1単位あたりの適正な労務費のことです。職種分野ごとの具体的な金額(基準値)は国土交通省が設定し、『労務費に関する基準ポータルサイト』で都道府県別・職種別に公表されています。
今回の建設業法改正(令和6年法律第49号)は、建設業の担い手を確保するため、次の3つを柱としています。
| 柱 | 内容 | 条文・禁止の相手 |
|---|---|---|
| 柱1:標準労務費(労務費に関する基準)の勧告 | 中央建設業審議会が適正な労務費の考え方を示し、令和7年12月2日に『労務費に関する基準』を勧告 | 建設業者・注文者の双方が参照 |
| 柱2:著しく低い労務費等の禁止 | 見積書の材料費等の額を通常必要と認められる額より著しく低くすること、注文者が著しく低くなる変更を求めることを禁止 | 建設業法第20条第2項(受注者)・第6項(注文者) |
| 柱3:原価割れ契約の禁止 | 正当な理由なく通常必要と認められる原価に満たない金額で請負契約を結ぶことを禁止 | 建設業法第19条の3第2項(受注者) |
柱1:標準労務費の勧告
基準値は標準的な施工条件を前提とした値で、基準を著しく下回る見積りは、後述のとおり行政の指導・監督の対象となり得ます。2026年6月17日にも基準値が更新されており、最新の金額は必ずポータルサイトで確認してください。
柱2:著しく低い労務費の禁止(建設業法第20条)
受注者が作成する材料費等記載見積書の額は、通常必要と認められる額を著しく下回ってはならず、注文者(元請)も、著しく下回ることになる変更を下請に求めてはなりません。注文者が違反した場合は勧告が行われ、従わなければ公表の対象となります。
柱3:受注者による原価割れ契約の禁止(建設業法第19条の3第2項)
これまでは注文者(元請)側の不当な値引き行為のみが規制対象でしたが、改正後は受注者(下請)側にも規制が及びます。正当な理由なく通常必要とされる原価を下回る金額で契約を締結すれば、指導・監督の対象です。
つまり、『仕事が欲しいから安くても受ける』という判断自体がリスクになり得る時代に変わったということです。
実務ではこういう相談が多い
『元請から提示された金額が標準労務費を下回っているが、断ったら仕事がなくなるのでは』という不安を持つ下請業者の方は多いです。しかし改正法では、不当に低い労務費を押し付ける元請側に勧告・公表の仕組みが用意されています。適正な見積りを提出すること自体が、法改正の趣旨に沿った正しい行動です。万が一、不当な値引き要請を受けた場合は、『建設業法令遵守推進本部』の駆け込みホットライン(0570-018-240)に相談できます。
下請業者がやるべき3つのこと
やるべきこと1:見積書に労務費の内訳を明記する
建設業者は、見積書に材料費・労務費・その他経費の内訳を記載するよう努めなければなりません(建設業法第20条第1項・努力義務)。元請・下請を問わず、見積りを作る側として取り組む必要があります。
見積書に記載すべき項目:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 材料費 | 資材・機材の調達費用 |
| 労務費 | 労務単価×歩掛かり×数量 |
| その他経費 | 現場管理費、一般管理費、法定福利費、安全衛生経費など |
労務費の算出にあたっては、公共工事設計労務単価を参考に、自社の実態に即した歩掛かりを設定してください。国土交通省は令和8年3月に『建設工事の見積書様式例・徹底書き方ガイド(運用編)』を公表しており、過去の実績から歩掛かりや各経理率の数値を用意しておく方法も示されています。
やるべきこと2:契約書を必ず取り交わし、見積書を10年間保存する
建設業法第19条は、請負契約の当事者に対し、工事内容・請負代金・工期などを記載した書面(契約書)の交付を義務づけています。改正後は、この契約書の重要性がさらに増しています。
口約束やFAXだけで工事に着手するケースはいまだに多いですが、契約書がなければ、労務費が適正だったかどうかを後から証明できません。紛争が生じた場合にも、書面がなければ不利になります。
さらに、国土交通省の『労務費に関する基準』の運用方針では、当初見積書と最終見積書を、工事目的物の引渡しから10年間保存することが求められています。デジタルで作成・保存しておけば負担軽減につながるとされています。契約書だけでなく、見積書も必ず保存してください。
やるべきこと3:工期ダンピングに応じない
通常必要と認められる期間に比べて著しく短い工期による請負契約の締結は、注文者・受注者ともに禁止されています(建設業法第19条の5)。短すぎる工期は、結果的に職人への長時間労働の強制につながり、労務費の不当な圧縮と同じ効果をもたらします。
工期を短縮するよう求められた場合は、追加の人員配置にかかる費用を見積りに反映させるなど、適正な条件交渉を行うことが重要です。
実務ではこういう相談が多い
『今までずっと口約束でやってきたのに、急に契約書を出したら元請に嫌がられないか』という心配の声をよくお聞きします。しかし改正法の全面施行後は、契約書や見積書の不備は元請側のコンプライアンスリスクでもあります。『法改正で契約書が必要になった』という説明であれば、元請側も理解を示すケースがほとんどです。
違反した場合の措置は?【対象別一覧】
違反には、建設Gメンによる調査を端緒として、許可行政庁の指導・監督処分や、注文者への勧告・公表が行われます。
| 対象 | 違反内容 | 措置 |
|---|---|---|
| 注文者(元請・発注者) | 著しく低い労務費となる見積変更の依頼(法第20条第6項) | 勧告→従わない場合は公表 |
| 注文者(元請・発注者) | 著しく短い工期での契約(法第19条の5) | 勧告・公表 |
| 受注者(下請を含む建設業者) | 著しく低い労務費での見積り(法第20条第2項) | 指導・監督処分 |
| 受注者(下請を含む建設業者) | 正当な理由のない原価割れ契約(法第19条の3第2項) | 指導・監督処分 |
特に注意すべきは、受注者(下請)側にも規制がかかるようになった点です。『安くても仕事を取りたい』という従来の商慣行が、法的リスクを伴うものに変わりました。悪質・反復的な違反は、営業停止などの監督処分につながるおそれがあります。
元請から不当な値下げを求められた場合の対処法は?
改正法を盾に交渉する際は、以下のステップを踏んでください。
- 標準労務費に基づく見積書を作成する - 公共工事設計労務単価を参考に、労務費の内訳を明示した見積書を提出する
- 書面で回答する - 口頭での値引き交渉には応じず、書面でのやり取りを原則とする
- 相談窓口を活用する - 不当な要請が続く場合は、国土交通省の『建設業法令遵守推進本部』(通称:駆け込みホットライン/0570-018-240、受付は平日10時〜12時・13時30分〜17時)に相談する。国土交通省のオンラインフォームからも時間を問わず情報提供できます
実務ではこういう相談が多い
法改正後も、すべての元請がすぐに対応を変えるわけではありません。しかし、国土交通省は法改正の周知と監視を強化しています。不当な取引慣行に苦しんでいる下請業者の方こそ、この改正を活用してほしいと考えています。
標準労務費のよくある質問(FAQ)
Q. 標準労務費とは何ですか?
A. 標準労務費とは、中央建設業審議会が勧告した『労務費に関する基準』に基づく、建設工事で通常必要と認められる労務費のことです。『公共工事設計労務単価×標準的な歩掛かり×施工量』で算出し、職種別・都道府県別の基準値が国土交通省のポータルサイトで公表されています。
Q. 改正建設業法はいつから適用されていますか?
A. 令和7年(2025年)12月12日に全面施行されており、現在はすでに適用されています。労務費に関する基準は、その前の令和7年12月2日に勧告されています。
Q. 標準労務費(基準値)より低い金額で見積もると、必ず違法になりますか?
A. 必ずしも違法ではありません。国土交通省の運用方針では、基準が想定する施工条件と同じ場合に基準値より低く見積もることは原則として不適正とされる一方、機械導入などで歩掛かり(生産性)を改善でき、その根拠を説明できる場合は許容され得るとされています。根拠なく歩掛かりを割り引いたり、労務単価を切り下げたりする見積りは、『著しく低い労務費』として違反となるおそれがあります。
Q. 自分の職種にはまだ基準値が公表されていません。どうすればよいですか?
A. 基準値のない職種でも、基準の基本方針に沿って、施工条件を踏まえた適正な労務費を個別に計算する必要があります。『公共工事設計労務単価×適切な歩掛かり×数量』で算出し、内訳を明示した見積書を作成してください。多能工の場合は、作業ごとに単価と歩掛かりを乗じる方法などが運用方針で示されています。
Q. 見積書は保存しなければなりませんか?
A. はい。運用方針では、当初見積書と最終見積書を工事目的物の引渡しから10年間保存することが求められています。建設Gメンや許可行政庁の調査に対応できるよう、電子データでの保存が推奨されています。
Q. 建設業許可を持っていない小規模事業者や一人親方にも適用されますか?
A. 運用方針では、見積書作成の努力義務や著しく低い労務費の禁止は許可業者が対象で、許可不要の事業者は直接的な規制対象外とされています。ただし、許可不要の事業者にも基準の活用と適正な契約が期待されており、適正な労務費を確保するための目安として役立ちます。
まとめ
2025年12月12日の建設業法改正全面施行により、建設業界の取引ルールは大きく変わりました。
下請業者が押さえるべきポイント:
- 見積書に労務費・材料費・経費の内訳を記載しているか
- 公共工事設計労務単価を確認し、自社の労務単価設定に活用しているか
- すべての工事で契約書を取り交わし、見積書を10年間保存しているか
- 不当に短い工期を安易に受け入れていないか
- 原価割れの契約を締結していないか
労務費の基準値は2026年6月17日にも更新されており、最新の金額は国土交通省の『労務費に関する基準ポータルサイト』で職種別・都道府県別に確認できます(2026年9月30日時点)。
参考(一次情報):国土交通省・労務費に関する基準ポータルサイト/国土交通省・改正建設業法「令和7年12月施行分」説明会資料/「労務費に関する基準」の運用方針/建設工事の見積書様式例・書き方ガイド(運用編)/国土交通省・建設業法違反の情報提供窓口(駆け込みホットライン)
建設業法改正への対応や、建設業許可の取得・更新に関するご相談は、行政書士ARISEリーガルオフィスまでお気軽にどうぞ。
最終更新日:2026年9月30日
監修:行政書士 伊敷紀巳雄(行政書士ARISEリーガルオフィス)

